Cro.netの住人、徒然なる日々
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再び静寂の中に服部の声が響く。どうせこういった企画自体、流れ作業。作った本人しか真面目に考えやしないし、逆に他の意見も取り入れる気もねぇんだからこんな茶番劇、早く終わらせてくれと誰もが思っていた。彼は沈黙を皆の諒解だとポジティブにとり、ネクタイを締め気合を入れると、すらすらと喋りだした。
「確かに今のままでも十分に生きた感覚を味わえますが、まだ足りないものがあると思うんです。それは動物が持つ熱です。ですから、体に熱を発生させるものを埋め込みより本物らしくみせてはいかがでしょうか」
彼はもう用意されたであろう内容をいかにも今考えましたというような満足げな顔をして言った。其れに対し周りの人々はスッと立ち上がり彼に拍手を送った。エリートだと思い込んでいる奴はこうして思い上がらせてボロ雑巾のように使い古せば良いんだ、誰かが心の中で思った。そのとき周りの人々の表情が豊かだったのは、これによって会議が終わる開放感と立ち上がって拍手をしているときだけはこんな見たくも無い元猫から眼を離すことが出来るからだった。やがて拍手が鳴り止み提案者の服部が十分な満足を得たことを確認すると皆は元猫から一斉に視線を外し、帰り支度を始めた。いち早くここから立ち去りたい、でないと調子に乗った服部に捕まりこの玩具の自慢やまして「この子を運んでくれないか」なんて頼まれた日にはこいつを殺してしまうかもしれないと皆恐怖していた。服部もさっきの拍手で満足したのか、テーブルの真ん中の猫を尻尾から持ち上げ、鼻歌交じりにグルグル振り回していた。それにより死臭が撒き散らされていることに彼自身が気付いていない。そもそもこの死臭が本当に猫からするものなのか服部自身から匂っているのか、そこにいた人々は分からなくなっていたし、元よりどっちでも良かった。ただこの臭いから離れられれば。
「で、でもそれだと子供達を騙すことになるんじゃ……」
突然、帰り支度をする会議室に声が響き、全員がそっちを見た。服部はその声に猫の死骸を忌々しくテーブルのふちに叩き付けた。その衝撃で猫の腕が折れたのか、そこの部分だけが別の生き物用にブラブラと揺れている。どうせ、こういうときに発言する奴は決まっている。石塚だ。彼は自分の中で意見が本当に云えるのかイジイジと考え、いつもこういった時間になるにまで答えが出せないのだ。
「子供を騙すのは良くないんじゃ……」
皆が彼の意見に反応しないので、石塚聞こえなかったのだと思い、もう一度同じことを言った。声量もあまり変えずに。聞こえてないと思ったのなら、声を大きくするべきだし、そもそも全員が彼のほうを振り返ったのだから、声が完全に聞こえなかったとしてもなんらかの音は届いたと分かるはずだ。こういうところが石塚は非常にどん臭かった。どこにでも偶にいるであろう、少しの時間を共にするだけで、あぁこいつを苛めたいな、と思う相手。彼は正にその典型だった。しかしそれが子供の社会ならば殴ったり蹴ったりすればすむかもしれないが、大人の社会では笑顔で握手をし、仕事を共同で行わなければならない。大人になって味わう嫌なことの一つだ。
石塚は皆に無視されていることに気付かないのか、また何かを言おうとした。その時だ。終業のベルが鳴り、カチンと音と共に会議室の電気が落とされ会議室は暗闇に包まれた。仕事の時間が終わったのだ。服部も残りの社員もスーツを脱ぎ捨て薄手のシャツにトランクスという格好になり皆、一見無邪気そうな子供の顔をしていた。そして彼らは石塚であろうシルエットに向ってそこらにある使えそうなものを手に集まりだした。会議室は石塚を中心に一つの大きなシルエットとなり波打った。物を叩くような音が部屋に鳴り響いた。振りかざすならばこれくらいの勢いが無ければ使い物にならない。そして大人ならば使っちゃいけないものを見極めなければ駄目だ。彼らは石塚に対する愛で溢れていた。
「へぇ、これが新しいおもちゃですか。 うわ、お腹の部分が動いてますね」
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