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Cro.netの住人、徒然なる日々
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 朝起きると外では雨が降っていた。嫌だなと思った。最近は、晴れた日が続いていて、久々の雨だった。
「どうも、台風が近づいているみたいよ、しかも直撃コース」
テーブルで朝食を取っていた僕の後ろから、寝ぼけ顔で歯を磨いている姉が話しかけてきた。
「こっちは、久々に帰ってきたって言うのに、嫌んなっちゃうわ」
姉は、そう言うと恨めしそうに窓の外を睨んだ。
二年前、東京の方の大学に入学して上京した姉が、ひょっこりと帰ってきたのは、つい三日前の事だった。
「何? 東京の方は、あんまり台風こないの?」
僕は口の物を咀嚼しながら、聞く。そのせいで、声が滞ったが、どうやら通じたらしい。
「ん~、あんまり来ないのよね、不思議とね。接近はするんだけど、どうも、毎回逸れていくのよ」
姉曰く、ここ二年間、東京で過ごしていて、直撃を経験したことは無いそうだ。
「なんかバリアーでも張ってあるのかしら」
姉は、歯ブラシをコップに突っ込んで、手を口元に置いた。
何かを考えるとき、そうする姉の癖は二年前のそれと変わっていない。僕は、その面影に少し安堵した。
二年ぶりに逢った姉は、印象ががらりと変わってしまっていたからだ。
適当に耳元で揃えていた髪は肩まで伸びてウェーブが掛かり、常に動きやすさを追及していた活発な服も、今や大人っぽい落ち着いたものに変わっていた。
表身もそうして変わったように中身もすっかり変わっていて、子供らしい無邪気な印象だった姉は、すっかり魅力的な大人といった感じにへと変わってしまっている。
まるで、別人だ。僕はそう思った。そして、今もその気持ちは拭い切れないでいる。
だから、僕はこうして、昔からの姉の癖や仕草などを目敏く見つけては、確かに姉がここに存在している確認し、何とか自分の衝動を抑えつけるのだ。
「こっちは、結構多いよ。まぁ、もうそれを十八年間も体験しているわけですから、慣れっこだけどね」
僕は、安堵の顔がばれない様に、両手を肩の横へ広げて、わざとおどけてみせた。
「確かに、こっちは台風が多かったわね。もうすっかり忘れてた」
姉はそう云って、髪を耳へと掛け直す。その仕草があまりに自然すぎて、殆ど男の子と同じぐらいに髪を揃えていた、あの頃の姉には出来ない芸当で、やはり、目の前の人は姉じゃないのかも知れない、という気持ちが、含む。しかし、その時、僕はそれ以上に別の気持ちを持っていた。
僕は、そうやって懐かしむように云う姉の口調に、軽い苛立ちを覚えた。 

カツン、カツン、カツン、ポチャン……

その時だ。突然、水音が、部屋全体を包んだ。突然響いた音に僕と姉は同時に窓の外を見た。ベランダに置いてある古びた銀のバケツを雨の雫が叩いていた。一定のリズムを刻んで、響き渡る水音が、拍子をとっているように聞こえる。どうやら、屋根に溜まっていた雨が耐えられなくたって、溢れ出たらしい。
その音は、昔の記憶となって頭を掠め、僕は目を細めた。
「まったくもう嫌になるわ」
姉はそう言ってためを付くと、歯ブラシの入ったコップを手に部屋を出て行ってしまった。
一人になった僕は、頭を掠めたその記憶に体を委ねた。
僕は、姉と過ごした雨漏りの空き家でのことを思い出す。


あれは、三年前のことだった。その日も朝から雨が降っていた。
その日、僕は日直で、いつも一緒に帰っている友達には先に帰ってもらい、一人帰路に着こうとしていた。そして昇降口に行ったとき、異変に気付いた。登校した時に傘立てに確かに入れたはずに傘が無かったのだ。僕は自分の探し方が悪かったのだと思い、それからその傘立てを何度も探した。しかし、それでも見付からなく、他の場所の傘立ても探した。そうして、二十分ほど探し回って、ようやく僕は傘が盗まれたのだと納得出来た。
自分も盗まれたのだから、他の人のを盗もうかという考えが一瞬頭を掠めたが、今までガムの一つも盗んだことの無い僕にはそんな勇気は無かった。
結局、雨が弱くなった頃を見計らって、走って帰る事にした。
家までは、走って約二十分掛かる。今だ、と雨が弱くなった瞬間を見計らって飛び出したものの、雨足を読み間違えた事に気付いたのは、十分ほど走ってた後だ。その時にはいよいよどうしようも無いほどに雨は激化していた。
僕は鞄を頭の上に翳し、走りながら、あたりに雨宿りが出来そうな場所を探した。鞄はすでに雨を吸って重くなっていた。
このあたりは、ベットタウンで住宅地が連なっている。そのため、雨宿り出来るお店やコンビニなどはなかなか見つからなかった。
糞ッ、と僕は傘を盗んだ見知らぬ奴を毒づいた。しかし、そんなことをしたところで、傘は返ってこない。息が苦しくなるだけだった。
いよいよ、諦めて、このまま家まで突っ切ろうと思ったとき、真っ直ぐ進んだ先の角から、聴き慣れた声が聞こえた。
「おぉい、こっちこっち」
手を大きく振って、姉が僕に向かって叫んでいた。姉も傘を差しておらず、制服の肩の部分に染みが出来ていた。
「ねぇ、何してるの?」僕は姉の元へ駆け寄り、息を切らしながら聞いた。
すると姉は、ニッコリと笑った。そして次の瞬間、いきなり僕の手を引いて走り出した。
「あんたも、傘忘れたの? 私も傘を忘れたのよ」
僕は、忘れたんじゃない、取られたんだ。と云おうとしたが、それを口に出さなかった。盗まれただなんて、何か格好悪いような気がしたからだ。 
「あの家に行きましょ」
「あの家って?」僕は手を引っ張られながら聞いたが、息が切れていて大きな声が出ず、雨音と僕らの足音にかき消されて、姉に声は届かなかった。
角を二回ほど曲がって、少し行った所で姉は立ち止まった。そこはまるで廃墟と言って良いようなほどに、朽ちた一軒の家の前だった。
さぁ、中に入るわよ。姉は、僕の手を引きその家のドアに手を掛けた。僕はそれを制し、息を切らせながら質問した。
「ねぇ、ここに誰か知り合いでも住んでるの?」
姉は眉を顰めて僕の顔を睨んだ。どうやら、僕はあまりにも突飛なことを言ってしまったらしい。彼女は少し間、僕の言ったその言葉の意味を咀嚼し、軽く首を横に振って言った。
「知り合い? そんなの住んではずないわ。知り合いどころか、ここには誰も住んでないんだから」
これで、住んでいるように見える?僕は、彼女にそう言われて、そこで始めてその家よく見た。確かに、ここに誰かが住んでいると思うのはあまりに筋違いだった。
「でしょ。だから入ろうよ」
「でも、誰も住んで居ないからって、勝手に入るのはまずいよ」
人の傘を取るという選択すら出来なかった僕には、もちろん見知らぬ家に入るという選択は出来るはずが無かった。
僕がその場に留まっていると、彼女は眉を顰めた言った。
「じゃあ、何? このままここで濡れてるの?」
彼女は僕に顔を近づけて、強い目で僕を睨んだ。僕が顔を逸らし、でも、と言うと彼女は更に目を強くした。結局、僕はその目に負けて、家へと入る事にした。
家に入ると、そこは確かに誰も住んでは居なかった。むしろ、ここは住めるような場所では無かった。天井は雨漏れしていて、壁は変色し、廊下は欠けた木材やゴミに覆われ、ほとんど見えなかった。
彼女は玄関を靴のまま乗り越え、天井から垂れる雫を避けて、廃棄物の上を上手くバランスを取りながら、トントンとその中を進んでいった。そして、玄関で家の廃墟っぷりに呆けている僕の方を振り向き、どうしたのこっちよ、と言って、廊下の角の部屋へと入っていった。姉の姿がすっかり部屋へと消えると、僕はハッとなり、急いで彼女を追っていった。
廊下の角の部屋へ行くと、そこはどうやらキッチンと、食卓が一緒になっている部屋らしかった。廊下に比べると、ここは比較的綺麗だった。ただ、雨漏りは廊下より酷かった。彼女は食卓のボロボロのテーブルに備え付けてあるこれまたボロボロの椅子を雨漏していない場所へと巧妙にずらし、腰を掛けて水分を吸ったスカートを絞っていた。
「こっちこっち、ここに、座って」 
彼女は、何故かテーブルを挟んで入り口の反対側にある、キッチン側の椅子を指して、言った。彼女は、正面から、右側の椅子に座っている。
「どうして、奥の椅子なの? 手前の椅子でも良いじゃないか。それに、向き合うなら、左側の椅子が良い」
僕がそう言うと、彼女はニヤリと笑って「じゃあ、座ってみれば」と言って手前の椅子をこちらへ向けた。
僕は彼女の笑みを不思議に思いながら、手前の椅子に掛けようとして、寸前でその笑みの理由に気付いて止めた。
「そう、足がね、腐ってるの。あのまま座ってたら、引っ繰り返っていたわ」
彼女は少し残念そうな顔をして、その椅子の足の一本を軽く蹴った。すると、椅子の足は簡単に折れて、バランスを失った椅子は、テーブルにぶつかり、倒れた。

「酷いな。どうして、教えてくれなかったのさ」
僕は、少し頬を膨らませながら聞いた。
「教えようとしたら、あなたが気付いたから、教えるタイミングを逃したのよ」
「教えようとしたらって。座った後じゃ遅いだろう」
「ま、別に良いじゃない。実際に気付けたわけだし」
「ぜんぜん、良くない」
僕たちは、椅子に座って、話を繰り広げていた。もちろん、僕はキッチン側の椅子に腰掛けている。外の雨は未だ勢いが衰えるばかりか、勢いを増し、天井から垂れる雫の量と場所は、その数を増やしていった。その度に僕たちは、濡れない位置を探して、腰を上げた。
お互いに四回ほど位置を変えた頃、彼女は、そうだ、と言って急に立ち上がり、キッチンの棚を開け、何かを探し始めた。

僕はその時、雨漏りが気になり五回目の移動を開始していた。いい場所がなかなか見つからなかった。

カツン、カツン、カツン、ポチャン

最初、それが何の音だか僕には分からなかった。彼女は、しゃがみ込んで何をしているのだろうと思った。そして、僕はキッチンの開いた棚から覗く物を見て、何の音だか分かった。
これは、水音だ。
「テレビとかでさ、良くあるじゃん。これ、一度はやってみたかったんだよね」
彼女は、天井から鍋へ流れ落ちる雫をぼんやりと眺めていた。それはコンロの火や砂時計の砂が落ちるのを眺めるそれに似ていた。僕は、そんな彼女の背中を眺めた。すると、彼女は不意に振り向いて言った。
「ねぇ、もっと増やそう。音楽会だ」
姉は、悪戯を仕掛ける子供のような顔だった。
僕は、彼女に見ていたことを悟られないように、そうだね、と言って、棚へと小走りで向かった。そして、勢いに任せて、持てるだけの鍋やヤカンを抱えて、いそいそと姉の所へ戻っていった。

ポチャン、カチュ、ポタ、ポンッ、パシュ

最初はあまり乗り気で無かった僕も、置く鍋やコップ、雫の勢いなどによって、さまざまに変わる水音に夢中になった。
「えっと、他に入れ物は……」
僕は、姉を先導するように、次々と容器を用意しては天井から垂れる雫の下へ無造作に置いていった。姉はそうして置かれた容器を、一番良く響く雫の下へと置き換えていった。キッチンはいよいよ音楽会と言っても過言では無くなっていた。
凄いね、と僕は再び椅子に腰掛けて、天井から落ちる雫を眺めながら呟いた。その呟きは反響する水音へと溶けていった。
部屋は本当に凄い音を奏でていた。まるで、部屋全体が歌っているようだ。もしかしたら、この部屋その物が楽器なのかもしれないとも思った。
「何? 何か言った?」 
姉は、まだしゃがみ込んでいて、最終チェックというように小まめに容器の位置をずらしていた。容器へと耳を近づけ、時にずらし、時に中の水を違う容器へと移していった。
そうする度に音は若干変化していった。
僕は、そうして水面下で変化していく音を逃さないように目を閉じて、耳に神経を集中させた。音は、波のようにゆったりと流れ込み、時に引いていった。
「なんかさ、凄くない? 自然って」
最後の調整を終えたのか、容器を見つめ、頷いたあと、再び椅子へと腰掛けた姉が、そう言った。
「自然って、音を奏でてるとような気がしない?」
僕が、何?という顔をすると、姉は雫の流れ落ちる一つの鍋を指して、「例えば、これは打楽器」と言った。
「雨っていう水を高いところから落として、世界を叩く打楽器」
姉は、そう言ってこっちを振り向き、にかっと笑って続けて言った。
「風は、そうリコーダーとか、そういう笛みないな感じ」


「何、ボーっとしてるの?」
気が付くと、部屋の奥へ消えていたと思っていた姉が横から覗き込むように立っていた。突然間近に現れた姉の顔に僕はドキリとした。
僕はそれを隠すように、顔を背けるようにして下を向いた。そして姉の手の辺りに、屈折する光を見付けた。姉の手にはコップが握られていた。しかし、さっきまでその中に突っ込まれていた歯ブラシが無くなっていた。
「なんで、持ってるの?」
僕は、疑問をそのまま口にした。その声は嫌にたどたどしかった。
姉はその問いに、一瞬、よく分からないという顔をしたが、あぁ、と納得したように頷き、コップを眺めた。
「あぁ、これね、ほら昔やったじゃない。 覚えてない?」
そう云いながら、姉はベランダへと続く窓を開けた。部屋の中に雨の音が、さっきより良く響いて聞こえるような気がした。
「ねぇ、あんたもこっちへ着なよ」
姉がベランダの向こうで僕を呼んだ。彼女のウェーブした髪は雨と風に弄ばれて、酷い状態だ。それでも彼女は一向に気にしないというように、笑っている。
その時、雫が、僕の中で弾ける音がした。それは、確実に今までの僕の響きとは違うもので、僕は、一瞬戸惑った。
「お姉ちゃん、髪、凄い事になってるよ!!」
そして僕は、姉の元へと、走っていく。姉は、僕の心配を他所に、コップへと注がれる水滴の響きに、あの時と同じように聞き入っている。
そうしている中も、コップへ落ちる水音は少しずつ音を変化させていく。一粒、二粒、雫が落ちる度、変化する水の調。
どうやら、姉も、この水音と同じように少しずつ変化していっているらしい。
その事に気付いた僕の心に、雫は、波の輪を広げながら、ゆっくりと浸透していった。


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↑大学一年の最初の方に書いた小説。なんか下手だ、普通に。リズム感悪いし、「句読点」がやたら多い。

えっと、なんで載せたかって云うと今日は絵を描くパワーが無いからです、といか帰ってきて飯食べて風呂は行って(その間30分)、今な訳です。
だもんで、他の日は一時くらいまで頑張るけど、主に水曜はこんな感じで絵描くの休みます。
の、代わりに昔とかに書いた小説載せます。
今回はたまたま完結してたけど、大体三、四ページで諦めた駄文になると思います。

まぁ、 そんな感じで~。今日は寝るぞ~。パワー溜めるぞ~
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プロフィール
HN:
川島ラタ
年齢:
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HP:
性別:
男性
誕生日:
1986/05/30
職業:
大学生
趣味:
哲学的妄想
自己紹介:
同人サークル『あす☆なろ』の相方兼、『あす☆なろ』サイト、Cro.netの運営をやってます。
あと絵とかだらだら描きます
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