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会議室というのはいつでもどんよりした空気が篭っている。どこだってそうだ、それがどんなに高級でスウィーツな部屋だとしても喫煙所の方が良いに決まっている。そもそもその原因は会社の命運や自分の立場とか大事なことを決めるところだからとか、そういうのには一切関係なく、ただ人が集って真面目な話をしようとするからだ。人間なんて互いに分かり合うことなんて不可能なのだから、場所が会議室だったとしてもヘラヘラ笑いながら上辺だけで分かり合っているふりをする方が、ずっと有意義だ。
それにしてもここの空気は重かった。あまりの重さに異臭すら感じ取られる。しかしそれもその筈、円いテーブルの真ん中には会議の目玉である、猫の死骸がおいてあった。死んでから数日経過している死骸は、エンバーミングされていたとしても仄かに嫌なにおいを放っており、まさにそれは死臭としか言いようが無かった。テーブルの淵を囲う社員達は会議に参加していることを示すために誰もが正面を向き、嫌でも猫の死骸を視界に入れなければ成らなかった。それが社会の仕組みだった。
「他に、意見は無いですか?」
服部が立ち上がって皆に意見を求めた。彼は今回の企画の立案者であり、この猫の死骸の飼い主だった。今回の企画は本社××・ホビーエンターテイメント社の新しい玩具製品の開発で、彼の提案は動物の死骸を新しい玩具として提案できないか、というものだった。そして、現在その第一弾としての『眠り猫』の開発会議であった。この『眠り猫』は猫や犬など、状態の良い死骸をエンバーミングして綺麗にし、お腹の部分にモーターを入れてお腹を膨らませたり縮めたりすることにより、まるで本当にただ眠っているだけのように見せかける玩具だった。自分のペットを態々玩具にしようとしてまで利用する心には一見、ペットに対する只ならぬ愛を感じ取れるような気もするが、実際は動物というものに興味を一切抱かない男だった。そのあまりの興味の無さは、彼は妻や子が猫を飼っていたことを同じ家に住みながら、終ぞ死ぬまで知らなかったほどである。しかし子供が泣きながらペットの猫を埋めているのを眺めていたときに「この死骸を再利用する価値は無いか?」と考え、今回の案がめきめきと思い上がった。なんだって商売に結びつけるのが彼の商売人としてのポリシーだった。彼は今までも雛の子供を卵の殻にもう一度戻し、子供に生まれた瞬間の喜びを味わわせる玩具や、水槽に水圧を加え一定の渦を作ることにより、死んだ魚を生きているように見せる玩具を開発していて、彼の閃きによって会社が今も存在していると言っても過言ではなかった。自分の今回の閃きにもっともの自信を持った彼は、いてもたってもいられず埋めようとしている猫の死骸をわが子から奪い取り、こうして今回の議題の席に上がっているのである。
「他の意見が無いのならば、私から一つ提案があります」